はじめに

授業をデザインする力と実践力が教員には求められるよね。
ここでは、UDの考え方を授業に落とし込んでいくよ♪
前回の記事では「教育におけるユニバーサルデザインの考え方」をテーマに、教育現場におけるユニバーサルデザイン(以降「UD」と省略)ってそもそも何なのかという、UDの基本を一緒に勉強しましたね。また、そこでは物理的環境と人的環境を分けて考え、それぞれの基本的な考え方を学びました。
しかし、「UDとは」を学んだからといって授業にすぐにUDを取り入れることができるかというとそうではありませんよね。
本記事では、UDを実際に実践してきた先生方の例を挙げてより具体的に解説していきます。
授業UD 3つの柱
授業におけるUDでは、ポイントを3つに絞って解説していきます。

授業UD 「視覚化」
授業において、生徒が授業に参加できるようになる1番のポイントは、「授業を見たい(受けたい)」と思わせることです。
その際には、以下の点を意識して授業を行う必要があります。
- 先生のキャラクターで惹きつける
- サプライズ的な演出を加える(生徒に意欲を持たせる演出)
- 具体物を示して視線を集める
- 「見たい!」と思わせる工夫をする
ポイントだけ見ると、「そんなこと毎授業でできないよ!」と思われる先生もいらっしゃるのではないでしょうか。私もそう思います。
しかし、難しく考えることはないのです。
ここからは、実践例を見ていきましょう。
「視覚化」の実践例
(1)基本編
まずは、誰もが黒板を見た時に情報が整理されているようにしましょう。そうすることで、勉強に苦手意識のある生徒でも「先生の方を見る」ことにネガティブな感情がなくなります。
私たち大人も「わからないこと」からは目を背けたくなりますよね。生徒も同じです。黒板は、勉強ができない生徒からしてみれば分からないの巣窟です。少しでも、そのネガティブな感情を取り除いてあげる板書を心がけましょう。
【例】
- 見通しを示す(授業のめあて、やること、流れ、時間の目安)
- 文字やイラスト、写真を用いて見本を示す(ICTで写すのもあり)
- 問題を解く時間をタイマーで明示する
- アプリ(google classroomやロイロノート)を活用して、必要な情報が瞬時に行き渡るようにする。
【かずうぇい流 視覚化のUD】
- 授業はプリントで実施し、必要以上に板書に時間を取らせないことで、先生を見る時間、説明を聞く時間を確保する。
- 授業プリントに「今日のゴール」を明記しておく。(ただし、板書もする)
- ロイロノートアプリを使用し、テレビにプリントを映しながらどこに何を書くのかを分かるようにしながら授業を展開する。また、配信機能を利用し生徒用タブレットにテレビ画面が映るようにしている。
- 教科書は使用せず、必要な情報、イラスト、図は全てプリントに載せている。(先生の説明を聞かずに読むと言うことが無くなる)
授業UD 【焦点化】
次に、授業のポイントを絞った授業展開を意識していきましょう。私たち教師は、長年の経験から生徒に伝えたい知識、情報をたくさん持っています。そして、それらをどうしても伝えたくなるものです。

その気持ちすごくよくわかります。
しかし、生徒からしてみれば、授業内容のほとんどが新たに学ぶ、新たな知識です。そんな何十個も覚えることはできません。
だからこそ、どこに「焦点」を当てるかが重要です。
言葉で伝えるのは難しいですが、1から10までを順番に確実に理解していくのではなく、1から9まで何となく理解してきたのを10を知ることで知識と知識がつながって、全てを理解できるような授業展開が望ましいです。

クイズ番組の答えを見たくなるのと同じような展開にするといいよね
例えば、理科の物理分野、電気の学習をしているとしましょう。
有名な法則で、フレミングの法則をこの単元で勉強します。
実験は以下のような実験で、電気を流すことで磁石の作り出す磁界と、電磁石の作り出す磁界がぶつかり合ってコイルが動くという実験です。

この時点では、生徒は実験が楽しいこと、そして「磁石の磁界と電磁石の磁界をぶつけることで、コイルが動く」ということしか理解できません。また、その後に学習する、フレミングの法則も「コイルがどのように動くか」を調べるもので、「なぜ動くのか」についてはここまで解明されていないのです。
そして、最後に説明するのです。
なぜ、コイルが動くのかを。(ここでの説明は省きますが、、、)
ここで、初めて今まで学習してきた内容がつながります。
これが10を知ることで、今までの1から9を理解するということです。
ここまでの内容をまとめると、
- ねらいをしぼること
- ゴールのイメージを持たせ、知識と経験で学ぶこと(さっきの理科の話で言うと、知識(フレミングの法則)、実験(経験))
- 手順、授業の流れを意図的に作り出すこと
- 吟味された発問にすること
- 「なぜ?」を生徒の心に残すこと
時折、とても勘の良い生徒が普段の授業や道徳で、学習内容を飛び越えた素敵な質問をしてくれることがありますよね。そして、そこから学びが深まることもあるでしょう。
しかし、それはレアケースであることを理解してください。
何でもそうですが、「教師が意図したこと」以外に目を向けて知識を深めていくことは非常に難しく、そこに期待するのは教師の本分を放棄していると言えるでしょう。
ですから、授業では「教師が意図して教えたこと」しか生徒には伝わらないと考えるべきです。そして、そこに辿り着くまでの道が一本だと、その険しさに脱落する生徒も出てきてしまいます。
ゴールまでの道は、教えるけど、決めきらず、だけどゴールだけは「明確」に示してあげましょう。
【かずうぇい流 焦点化のUD】
- 授業プリントに書いてある今日のゴールで、何が10なのかを伝える。
- 授業プリントの1問目には、誰もが経験から答えることのできる
授業UD 「共有化」
最後に、「対話」によって知識や見方、考え方を共有する場を作りましょう。1つの問いに対して、1つの答えがある場合が多い学校教育ですが、答えにたどり着くまでの考え方は一つとは限りません。そして、そういった仲間の多様な考え方を味わうことが、思考の成長につながっているのです。
共有の方法は、多くのパターンが想定されますので、それは後ほど紹介します。
まず、共有にあたって押さえておかなければいけないポイントを確認しましょう。
- 伝えたくなるような環境づくりを最優先に考えること
- 互いの意見を肯定するルールづくり
- 目的を正解を導くことよりも、意見を共有することに重きを置くこと
以上3点については、事前によく確認しておく必要があります。
それでは、詳しく見ていきましょう。
授業UD「共有化」 環境づくりについて考える
自分の意見を言うことができない一つの要因が、協働学習時における苦手意識や不安感が生じることにあります。ここでの不安感は以下のような点で、
- 間違え、失敗への不安
- 正解かどうかの不安
- 考えの相違を受けれてもらえるかの不安
- 理解の遅れによる不安
こういった不安感を生徒の「認知的不安」といいます。
また、認知的不安が生じることで、話し合いの中で以下のような不安に発展します。
- 考えを理解してもらえるか
- 否定されないか
- 嘲笑されないか
- 責められないか
- 無視されないか
といった不安感を「否定的反応」と呼んでいます。

自分の意見を受け入れてもらえるかどうかって大人になっても不安だよね
では、生徒のこういった不安感をなくすためにはどのようにしていけばいいのでしょうか。私は、以下の点を意識して協働学習を行うようにしています。
- 正解を出すことよりも、考えることに重きを置いていることをわかるように発問する
- 「いいね」と思った意見を自分に取り入れる習慣をつけるように授業をする
- 自分の意見と人の意見、答えを書くスペースを分ける
人の誰もが間違いや失敗を恐れるものです。だからこそ、「正解を出しなさい」と発問をすれば、おのずと学力に不安がある生徒の発言は減少傾向となります。そうならないためにも、発問は「自分がどう思ったか周りの人と共有してみようか」程度に抑えるのです。すると、正解を出さなきゃいけない意識ばかりが膨らむことはなく、互いの意見を言い合うことができるようになります。
また、「その意見いいね」を授業プリント(ノート)にメモ書きできるスペースを確保しておくことで、自分の意見を消さなくていい、間違っていても大丈夫であるという安心感が生まれます。

話し合いのルールも決めておくと、パターン化することができて、もっと話しやすさが増すよ!
自分の意見を言いやすい環境が少しずつ整ってきましたね。次に、話し合いのルールも決めてしまいましょう。私の設定する話し合いルールは以下の点です。
- 人の意見を否定しない
- 「結びつける言葉」を育てる
どちらも考え方は同じで、「聞いてくれるから話したくなる」を軸にしています。
人の意見をまずは受け入れ(肯定する)、反対意見があるときは「結びつける言葉」を使って意見を付け足すように導くことが重要です。
「〇〇さんに賛成で~」
「〇〇さんの意見に似ていて~」
「〇〇さんの意見に付け足しで~」
「〇〇さんに言われて気づいたんだけど~」
「〇〇さんの意見はわかるけど私は~」
「それもあるけど私なら~」
このように、話し合いの仕方を決めてあげることは生徒の心理的安全性につながります。
「共有化」の実践例
実際に、現場で働かれている先生方に研修会で共有化をテーマに意見交換を行いました。その時に上がった実践的な共有化をいくつか紹介します。
- google classroom機能を使って、生徒の意見を集約し、誰もが見られるようにしている
- ICTを活用し、話すことが難しい生徒の意見を吸い上げられるようにしている
- より深めてほしい内容に「なぜ?」と問いかけるようにしている
- 対話の時間と、一人学びの時間をはっきりと分けている
- 単元の途中で対話的活動を入れることで理解度の確認の兼ねる
- 話す、聞くルールを教室に掲示する
- 少数派の意見を排除せず、教員が取り上げてあげられるようにしている
- 教科書ベースでなく、身近な話題にシフトして考えられるようにしている
等々、様々な方法で話し合いを充実させることができます。
どれも、生徒の安心感につなげて伝え合うことの楽しさを共有化していくことが大事ですね。
おわりに
授業とは、先生が知識を一方通行で植え付けるためだけの時間ではありません。授業は、生徒が「わからない・できないに正直になれる場所」であることがとても大事です。
授業にユニバーサルデザイン(UD)を取り入れることは、全ての生徒が学びに参加し、成長できる環境を作るための重要なステップです。本記事では、UDを実践するための3つの柱「視覚化」「焦点化」「共有化」を紹介し、具体的な実践例を通じてその効果を解説しました。
視覚化では、生徒の興味を引きつける工夫や情報の整理が鍵となります。
焦点化では、授業のポイントを絞り、生徒が知識を深められるよう導くことが重要です。
共有化では、対話を通じて多様な考え方を共有し、思考の幅を広げることが求められます。
これらの取り組みは、一見難しく感じられるかもしれませんが、少しずつ実践することで授業の質が向上し、生徒の学びが深まります。教員としての経験や創意工夫を活かし、UDを意識した授業づくりに挑戦してみてください。
全ての生徒が「学びたい」と思える授業を目指して、一緒に取り組んでいきましょう!
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